2017/02/26 00:00

 Lubok Verlag(ルボーク フェアラーグ)を主宰するペインター、クリストフ・ルックヘバーレ(Christoph Ruckhäberle)とは一体何者なのだろう。クリストフは1972年ドイツ・ミュンヘン郊外プファッフェンホーフェン(Pfaffenhofen)に生まれた。1991から92年にはカリフォルニア芸術大学(California Institute of the Arts)に留学し、その後2002年にライプツィヒ視覚芸術アカデミー(Hochschule für Grafik und Buchkunst)のマイスターシューレ(MFA)を修了した。ドイツにおけるコンテンポラリーペインティングの潮流、ネオ・ラオホ(Neo Rauch)、マーティン・コーベ(Martin Kobe)、ダビッド・シュネル(David Schnell)、ティロ・バウムゲルテル(Tilo Baumgärtel)らとともに「新ライプツィヒ派 (Neue Leipziger Schule)」の萌芽に居合わせた重要なアーティストだ。
 いまもなおクリストフの個展はベルリン、ロンドン、パリ、チューリッヒ、コペンハーゲン、ブリュッセル、ニューヨーク、メキシコシティなど、世界中で開催されている。コンテンポラリーアートの殿堂・サーチギャラリー (SAATCHI GALLERY)にも作品が収蔵されている。

 クリストフのパートナーでLubokのマネージャー、ヘンリエッテ・ウェーバー(Henriette Weber)は、子鹿のバンビのような外見で、頭の回転が速くさばさばとした性格だ。わたしはLubokの書籍を好きなのと同じか、もしかしたらそれ以上に、ヘンリエッテが好きだ。ある日ヘンリエッテとお茶をしていたとき、話題がクリストフとの出会いに移った。「一緒に出版社をやろう。そして一緒に世界中のアートブックフェアを旅しよう」と口説き落とされた、らしい。そこで頬を赤らめるヘンリエッテが可愛いかった。こんな話しも聞いた。クリストフは自分が納得できる版画を刷り上げる技師をみつけることが出来ず、しびれを切らして遂には自分の友だちを「二年間の印刷修行に出させた」という。
 この"友だち"こそがLubokのキーパーソン、1958 年製アルベルト・フランケンタール(Albert-Frankenthal)社製プレジデント(Präsident)のレタープレス機を使い倒すプリント技師、トーマス・ジーモン(Thomas Siemon)だ。わたしがトーマスのアトリエを 訪ねた時は、慣れた手つきでタルアール(TalR)の新刊「Mädchen in 3D(メディヒェン イン ドライ デー:三次元の少女)」の表紙を印刷していた。トーマスの凄さは、機械が動かなくなった時に発揮される、とも言えるのかもしれない。その日も用紙の送りにトラブルがあった。トーマスは機械をぐるりと一周しながら、あっちこっちを叩いて開いて閉じて原因を見つけていた。部品交換が必要な場合は、細かな部品の設計図面も自らが引くそうだ。部品の在庫はもうどこにもない、そんなレタープレス機なのだ。

 Lubokはインディペンデントパブリッシャーのみならず映画館ルルキノ(LURU KINO)の運営もしている。映画館の内装やクリストフが自分の展示で使う壁紙を日本に送って欲しいとお願いしたら、「あれもトーマスがプリントしたの」という返答で、なんだかドイツっぽいなと懐かしい気持ちになった。

 Lubok Verlag、それはクリストフを筆頭にヘンリエッテとトーマスが、三人四脚で歩んできた人生そのもののようだ。それがなんだかわたしには眩くて、Lubokの書籍を手にすると、いつも夢見心地な気持ちになる。